いとしきもの 手わざ ルーティーン 文字をこえて

開催概要

本展は、障がいのある人の優れた作品を、現在活躍をする美術作家とともに包括的に紹介することで、現代美術としての認識を広げ、評価を高めていくことを試みる展覧会です。

気候変動や戦争、貧富や人権の問題、日々進化するテクノロジーの影響など、行き先の見えない混沌とした時代にあって、現代美術の作家たちは、より良く生きるための世界の見方や生き延びる智恵を、自身の作品を通じて提示してくれます。作者自身が十分に説明することが難しい障がいのある作家も、身近な環境を反映しながら、歓びや苦しみを独自の表現へと昇華させています。小さな問題の積み重なりが、規模の大きな問題へと増幅していく現代社会において、掬い取るべき本質的なものは身近なところに潜んでいると、言えるのではないでしょうか。

本展では、新たな視野で世界を拓くための芸術表現の力を、障がいの有無を超えた総勢14名の作家作品の中から探ります。ここでは、日常の生活の中に息づくものとして、「いとしきもの」「手わざ」「ルーティーン」「文字をこえて」の4つをキーワードに、暮らしの中で愛おしいと感じる感覚、一見ありふれた手仕事や日々繰り返し行う行為に隠された意味、あるいは常識と思われる中に存在する小さな違和感などに触れていきたいと思います。寡黙だけれど強靭な意思が顕れた作品を目の前に、何故この表現が生まれたのか想像を巡らせ、作品が発する言葉にし難い何かを受け取ろうとする姿勢は、芸術のかけらを見つける入口に立つことに繋がります。微細なことに意識を向けることで、深い理解や共感が生まれるのではないでしょうか。

本展を通じて、障がいの有無を超えて、人が表現し続ける根源について、同時代を生きる鑑賞者の皆様と共に思いを巡らせながら、考える機会になることを願います。

開催日時

2025年1月23日(木)ー27日(月)

11:00ー19:00(初日は13:00から、最終日は18:00まで)

場所 スパイラルガーデン(スパイラル 1階)
入場料 無料
  • 主催:大阪府
  • 実施主体: 一般社団法人日本現代美術振興協会、カペイシャス
  • キュレーション:一般社団法人日本現代美術振興協会
  • 企画アドバイザー:小出由紀子事務所
  • 会場協力:株式会社ワコールアートセンター
  • 協力:アトリエひこ、YELLOW、ギャラリーヤマキファインアート、小出由紀子事務所、すずかけ絵画クラブ・あとりえすずかけ、なないろサーカス団、西村画廊、やまなみ工房、ユウの家、るんびにい美術館

出展作家

  • タイトル不明

    上土橋勇樹

    かみつちばし ゆうき

    タイトル不明

    2021
    紙に水性染料ペン
    39.3 × 54.3 cm
    Courtesy of Atelier Yamanam

    上土橋勇樹 かみつちばし ゆうき

    上土橋は、3歳の頃から英語やフォントに興味を持ち、7歳の頃からパソコンを使い始めました。

    彼が描く作品は、美しい飾り文字(カリグラフィ)の作品です。製図などに使われる水性顔料ペンを拳を握るように持ち、丁寧に線を太くしていきます。手描きの作品は他にも、小さなラベルやタグのデザイン、洋書の表紙やDVDのパッケージデザインなど多岐に渡ります。また漫画のようなコマ割りの絵画もあり、人物と文字の展開が独特な世界を形成しています。

    Aから始まる英文字の並びは、一見人物名のように見えますが、読めるようで読めません。人物名でさえもないようです。他の文字列も、時々HotelやWaterなどと判別可能な単語が含まれますが、多くは英単語には存在しない恐らく架空のスペルのようです。読めそうで読めない、分かるようで分からない、不穏なもどかしさが漂います。

    最近は、ワードやパワーポイントのパソコンソフトを使用してグラフィックデザインも行っています。その作業は超高速で、多数ある中から好みのフォントを選び、そのフォントの属性を、コピー、ペースト、書き換えながら、ひたすら繰り返します。その一連の作業は自身の動画配信チャンネルでも公開しています。デザイン仕事が一段落したら、デスクから離れ、バレエダンサーのように身体をクルクルと回転させます。その姿はエネルギーの発散なのか歓びのダンスなのか、あるいは全く別の意味を持つのでしょうか。

    上土橋の制作行為からは、文字によるコミュニケーションの特性と限界を感じさせると共に、パソコンや動画配信などのIT社会によって広がった別の時空との対話に挑戦しているかのうようです。


    略歴

    2001年岐阜県生まれ、現在滋賀県在住
    2020年からやまなみ工房にて週5〜6日、主に手描きやパソコンを使った制作を行う

    主な展覧会

    2023年
    「並行世界の歩き方 上土橋勇樹と戸谷誠」ボーダレス・アートミュージアム NO-MA、滋賀
    2022年
    「想像する文字展 Imagine Letters/Letters Imagine」京都府立図書館、京都
    「みんなの無限大アート やまなみ工房の宇宙」ウッドワン美術館、広島
    「やまなみ工房展 View from the Mirror アール・ブリュットの世界」NU茶屋町、大阪
    「人間の才能生みだすことと生きること」滋賀県立美術館、滋賀
    2021年
    「about me 5~"わたし"を知って〜全身全霊 Body and Soul」イマジンアンドデザイン、大阪
    「想像する文字展」京都府立図書館、京都

  • Vessel-green

    小林孝亘

    こばやし たかのぶ

    Vessel-green

    2019
    キャンバスに油彩
    38 × 45.5 cm
    © Takanobu Kobayashi Courtesy of Nishimura Gallery

    小林孝亘 こばやし たかのぶ

    小林は1990年代後半から、器や枕、森など普遍的で日常的なものを題材に、光に重点を置いた絵画を制作してきました。常に時流の動向から一定の距離を保ち、地道に自身の内側を手探りしながら本質的な表現を志向してきた小林の作品は、我々が普段目にしているごくありふれたものが、奇を衒わない丁寧な筆触で描かれているのが特徴的です。そして、たったそれだけのシンプルな絵画であるのに、あるいはそれゆえに、その見慣れたものが潜在的に持つ非日常性を浮上させ、ひいては「存在」していることの不思議を観者に意識させる、稀有な魅力を有しています。小林は次のように語ります。

    「これまでずっと、具体的なものを題材に具象的な絵を描いてきた。様々なものを描いてきたが、何を描いても、描かれているものやそれを取り巻く状況を描こうとしているわけではなく、目に見える具体的な形をきっかけにして、目には見えない『何か』を描きたいと思っている。その『何か』とは、ものがそこにあるという『存在』ではないかと思う」

    今回展示するのは、小林の代表作である「うつわ」や「枕」をモチーフとした作品です。彼の作品は、自分という存在、そして身の回りのありふれた風景との関わりを見直すきっかけになることでしょう。


    略歴

    1960年東京都生まれ、現在神奈川県在住
    1986年愛知県立芸術大学美術学部油画科卒業

    近年の個展

    2023年
    「うつわたち」西村画廊、東京
    2022年
    「雲と影」西村画廊、東京
    「真昼」豊田市美術館、愛知
    2019年
    「Balance」100 Tonson Gallery、バンコク、タイ
    2014年
    「小林孝亘—私たちを夢見る夢」横須賀美術館、神奈川

    近年のグループ展

    2023年
    「求龍堂100周年記念展」ARKESTRA、東京
    「GROUND3 絵画のふつうーふつうの絵画」アートラボあいち、愛知
    「共生世界―2022 済南 国際ビエンナーレ」済南市美術館、済南市、中国
    2022年
    「2022年コレクション展Ⅱ 特集1"リ・フレッシャーズ-新収蔵品紹介展"」兵庫県立美術館、兵庫
    「サンセット/サンライズ」豊田市美術館、愛知

    パブリックコレクション

    愛知県美術館 / 国立国際美術館 / 東京国立近代美術館 / 東京都現代美術館 / 広島市現代美術館 / ほか


  • かき消されたタイトル

    柴田龍平

    しばた りゅうへい

    かき消されたタイトル

    2015
    キャンバスに顔料ボールペン、アクリル絵具、レジン
    112.2 × 145.6 × 2.8 cm

    柴田龍平 しばた りゅうへい

    柴田は数字に対する高い記憶力を持ち、芸能人の誕生日を覚えていたり、初めて会う人の生年月日を聞くと瞬時に曜日を言い当てたりします。作品はその数字に対する強い関心がストレートに映し出されたものです。

    作品をよく見ると何分何秒と書かれていたり、日付や曜日が書かれていることが分かります。それらは好きなアイドルの曲の長さ、昔見ていたテレビ番組の放映日時などが書き出されていると言います。 描く過程で電卓を素早く弾くのですが、彼独自の計算方式のため謎めいています。それは、作者本人にとって分かっていることを再確認する、点検作業なのかもしれません。また柴田が選ぶ支持体は、必ずしも紙やキャンバスばかりでなく、包装パッケージや何かの切れ端のこともあります。以前は大学ノートを持ち歩き、時間があると電卓を弾きながら、身の回りに存在する様々な数字を書き出していました。スマートフォンを手に入れてからは、音楽サイトで長編の楽曲をよく見ている様子からも、作者にとって数字に触れ続けることは、日々の生活の中での安らぎなのかもしれません。

    部分をみると細かな装飾模様のように、全体をみると流動的な抽象画にも見える柴田の作品は、世界を理解するためには、別の見方があることを示唆してくれます。


    略歴

    1988年大阪府生まれ、現在も大阪府在住
    2007年よりユウの家にて週に1回の絵画クラブの時間に制作を行う

    主な個展

    2019年
    「カペイシャス展覧会#11 柴田龍平個展」Calo Bookshop and Cafe、大阪

    主なグループ展

    2024年
    「5つのまなざし」 髙島屋大阪店 ギャラリーNEXT、大阪
    2017年
    「アールブリュト?アウトサイダーアート?それとも?ーそこにある価値」Eye of GYRE、東京
    2016年
    「大阪府現代アート世界に輝く新星発掘プロジェクト」大阪府立江之子島文化芸術創造センターenoco、大阪(最優秀賞)

  • ビンにいけられた花とビワとブドウの実

    舛次崇

    しゅうじ たかし

    ビンにいけられた花とビワとブドウの実

    2010
    パステル・水彩紙
    79 × 54.7 cm
    Courtesy of Suzukake Art Club & Atelier Suzukake

    舛次崇 しゅうじ たかし

    熱烈な阪神タイガースファンだった舛次崇は、アトリエに通い始めたばかりの頃、甲子園球場のスコアボードをきっちり文字まで描いた後、黒のクレヨンで塗り込めていました。背景の青空以外はすべて真っ黒の四角い塊の絵を描いていたそうです。

    彼が描くモチーフは、絵画クラブの棚にあった植木鉢、空き瓶、パイプ、小さなブラシや、職員が持ち寄る季節ごとの草木や野菜など。覆い被さるような姿勢で、紙に顔を近づけ、丁寧にパステルで色を塗り込みます。画面に収まりきらない大胆な構図は、ものの置かれた通りの配置ではなく、彼の頭の中もしくは画面上で再構成されたものです。また画面から漂うの柔らかな雰囲気は、彼自身が理想とするラインが描けるまで、パステルと消しゴムを同じぐらい使い、描いては消してを何度も繰り返して生まれたものです。真摯に作品制作に向かった息遣いを感じます。

    ごく限られた色を使いシンプルなシルエットまでに還元された作品は、鑑賞者に新たなものの見方や本質を示唆します。作品に対峙しながら、ものを実際に捉える、理解することについて思いを馳せてみてください。


    略歴

    1974年兵庫県生まれ、2021年永眠
    1993年からすずかけ絵画クラブで絵を描き始め、1990年代から作品発表をする

    主な展覧会

    2024年
    「ボーダレスー限界とあわいー」ボーダーレスアート・ミュージアムNO-MA、滋賀
    「つくる冒険 日本のアール・ブリュット45人―たとえば、「も」を何百回と書く。」滋賀県立美術館、滋賀
    2021年
    個展「舛次崇—静かなまなざし—」兵庫県立美術館ギャラリー棟3F、兵庫
    2020年
    「あしたのおどろき」東京都渋谷区公園通りギャラリー、東京
    「あるがままのアートー人知れず表現し続ける者たちー」東京芸術大学大学美術館、東京
    2019年
    「知られざる美のかたち」バンコク芸術文化センター、バンコク、タイ
    2014年
    「Art Brut Japan Schweiz」ラガーハウスミュージアム、ザンクトガレン、スイス(グギング・ミュージアム、ウィーン、オーストリアに巡回)
    2012年
    「Art Brut from Japan」ドルハウス博物館、アムステルダム、オランダ
    2010年
    「アール・ブリュット JAPONAIS」アル・サン・ピエール美術館、パリ、フランス
    2008年
    「Japon」展、アール・ブリュット・コレクション、ローザンヌ、スイス

    パブリックコレクション

    アール・ブリュット・コレクション(スイス) / ポンピドゥー・センター(フランス) / 滋賀県立美術館 / もうひとつの美術館

  • ジンベイザメザウルス

    曽祇一晃

    そぎ かずあき

    ジンベイザメザウルス

    2019
    色紙
    25.7 × 37.2 cm
    Courtesy of Nanairo Circus Troupe

    曽祇一晃 そぎ かずあき

    曽祇は、普段大阪府内作業所に通いながら、週に1回奈良県王寺町にあるなないろサーカス団で活動をしています。施設では、午前中近くの森に出かけるのですが、皆が農作業や動物の世話で勤しむ中、彼だけは虫取り網を片手に、昆虫探しをすることが認められています。ムカデなどの昆虫を探しては、素手で優しく捕獲し、愛で、戯れ、観察します。終了時間がくると、優しく放し、森を後にする日々を送っています。

    曽祇が切り絵の制作を始めたの小学5年生の頃で、以来30年以上続けています。
    施設では気が向いたときに制作をし、A4サイズなら集中して3ー4時間程で完成させます。終わらない場合は、自宅に宿題として持ち帰ることもあります。モチーフにするのは、ムカデやサソリ、蜂などの昆虫類。あるいは、ピストルやミサイル、戦車などの戦闘機器。それに恐竜や動物や植物が加わります。それらを下書きなしに頭の中で構成し、空想上の生き物「〇〇ザウルス」を生み出していきます。

    一枚の紙から現れる、トゲトゲしい造形は彼の好きなものが連なった小宇宙。細部の精密な造形も、全体を繋げる曲線美も驚くべきものがあります。曽祇が生みだすシルエットから、棘々しさや毒々しさだけでない、優しさや温かさを感じとってみてください。


    略歴

    1977年大阪府生まれ、現在も大阪府在住
    2016年頃から週に1回なないろサーカス団に通い活動をしている

    個展

    2023年
    「カペイシャス展覧会#20 曽祇一晃個展」Calo Bookshop and Cafe、大阪

    グループ展

    2016年
    「アール・ブリュット☆アート☆日本3」ボーダレス・アートミュージアムNO-MA、滋賀

  • 「書体」より

    立花文穂

    たちばな ふみお

    「書体」より

    2018
    紙に墨
    54.5 × 81 cm

    立花文穂 たちばな ふみお

    立花は、広島で製本所を営む家庭に生まれ、文字や紙、印刷物が身近に存在する環境で幼少期を過ごしました。近年は、本をつくることのほか、タイポグラフィによる実験的な作品で知られており、文字や紙、その質感など、その原理的特性を深く追求する作品を発表しています。

    今回展示する作品は、2018年に発表した「書体 Shape of my shadow」シリーズ。日焼けし、折り目がついたデッドストックの紙に、墨筆で、何とも断定しがたい記号が集まり、紙面を形成しています。形象文字が生まれた長い過程を逆回ししたかのようにも見えます。作者は同シリーズの書籍に次のように記しています。

    「黒い雨が上から下へ垂れた雫の筋がなん本も残る白い壁を見た。
    もうそこには居ない人の影がおぼろげな姿で黒く滲みている石を見た。
    なん人もの死んだ人の名前を帳簿に筆で書き記すところを見た。
    閃光のせいで、黒く刷られた文字の部分が灼けて穴があいている紙片を見た。

    墨が紙に滲み入るものは、永遠なのか。
    ぼくの影は、死んだあとにも残っているだろうか」

    立花作品は、線をひく、かたちをなぞる、記すという原初的な行為の意味を改めて考えさせるものです。


    略歴

    1968年広島県生まれ、現在東京都と広島県で活動
    1994年東京芸術大学大学院修士課程美術研究科修了

    主な個展

    2022年
    「印象 It's only a paper moon」水戸芸術館現代美術ギャラリー、茨城
    2016年
    「PLASTIC」The Mass、東京
    2011年
    「デザイン 立花文穂」ギンザ・グラフィック・ ギャラリー、東京
    2005年
    「木のなかに森がみえる」SHIJEIDO LA BEAUTÉ、パリ、フランス
    2001年
    「変体」ギャラリー360°、東京
    1995年
    「MADE IN U.S.A.」佐賀町エキジビット・スペース、東京

    主なグループ展

    2011年
    「風穴 もうひとつのコンセプチュアリズム、アジアから」国立国際美術館、大阪
    2008年
    「MOTアニュアル 解きほぐすとき」東京都現代美術館、東京
    1999年
    「Ten Asian Artists in Residence」Mattress Factory、ピッツバーグ、アメリカ
    1997年
    「SELECTIONS WINTER '97」The Drawing Center、ニューヨーク、アメリカ
  • 矯めを解す#4

    谷澤紗和子

    たにざわ さわこ

    矯めを解す#4

    2023
    紙にアクリル絵具、解体された家屋の廃材、アクリル板
    50 × 35.6 × 3.6 cm

    谷澤紗和子 たにざわ さわこ

    谷澤は、ジェンダーやフェミニズムをテーマに、切り絵やステンシル、陶芸など、従来の男性中心的な美術史の中で主流ではなかったメディアや技法を用いて、社会に存在する違和感をあぶり出す作品をつくっています。
    彼女の作品は、性差を象徴する事物や過去に描かれてきた女性像をモチーフとして、それを折り、潰し、切り抜き、刷り込み、彩色をほどこしながら、一元的には捉えられない複雑な人間の側面を表します。また社会的に弱い立場の人々ほど声をあげずらい現状を、「NO」「くそやろう」「うばうな」など短く強いメッセージで訴えます。用いられる紙やフレームは、梱包紙や解体された家屋の廃材など、包み隠すことや家長制度の解体など様々なメタファーを含んでいます。

    作者は「切り紙の造型は、特権的な技術や空間を必要としない、弱さと柔軟さを合わせ持った豊かな存在」と言います。困難な時でも制作することを許容する身近にある素材と手仕事。それらを慎重に用いながら、強い意志によって生み出された作品は、心底にずしんと響きます。

    今回は、精神病を患い病床でも制作を続けた高村智恵子(1886-1938)の紙絵を模写することで智恵子像の再解釈を試みた作品「はいけいちえこさま」シリーズと、日常生活や教育における矯正を解すための演習という意味で名付けた「矯めを解す(ためをほぐす)」シリーズを展示します。


    略歴

    1982年 大阪府生まれ、京都府在住
    2007年 京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程修了

    近年の個展

    2023年
    「矯めを解す」studio J、大阪
    「彼方の手に触れる」See Saw Gallery+hibit、愛知
    「ちいさいこえ」Finch Arts、京都
    2022年
    「情緒本意な甘い気分」studio J、大阪
    2021年
    「女性像の演習」kumagusuku SAS、京都

    近年のグループ展

    2024年
    「かわるあいだの美術2024〈物語る予感〉」鹿児島市立天文館図書館、鹿児島
    2022年
    「VOCA展2022 現代美術の展望―新しい平面の作家たち―」上野の森美術館、東京
    「越境ー収蔵作品とゲストアーティストがひらく視座」京都精華大学ギャラリーTerra-S、京都
    2020年
    「六甲ミーツ・アート芸術散歩2020」六甲山、兵庫
    「ボーダレス・エリア近江八幡芸術祭―ちかくのまち」奥村家住宅、滋賀

    パブリックコレクション

    愛知県美術館、高松市美術館、日本美術技術博物館マンガ館(ポーランド)


  • 無題

    似里力

    にさと ちから

    無題

    2022年頃

    それぞれ約5 × 5 × 5 cm
    Courtesy of Lumbini Art Museum(参考作品)

    似里力 にさと ちから

    似里は、糸を切っては結び、また切っては結ぶという手仕事を日々繰り返しています。もともとはアトリエの共同作業として行われていた草木染糸の制作の際に、糸が絡まるアクシデントが発生し、やむをえず糸を切って結び直したその所作を、似里が気に入ったことがきっかけでした。そのうち絡まってもいない糸を、職員の目を盗んでこっそり切って結ぶようになりました。彼自身「いとっこ(糸っこ)」と呼ぶ行為は、2008年からは職員公認のもと、続けられています。

    弱視である彼は、丸みのある指で糸を持ち、背中を丸めながら糸にグッと目を近づけて、作業します。南向きのよく日の入るあたたかな窓辺で、自らの手の感触を感じながら、一つ一つ、結んでは切り、結んでは切りを繰り返し、結び目を生み出していきます。その姿は祈りにも似た、尊さを感じさせます。

    結び目が無数に連なった糸玉。最初のひと玉を完成させるのに約1年かかり、今では数ヶ月に1つのペースで生み出されます。強靭な集中力の膨大な積み重ねにより完成したものは、結び目が花びらのようにも、糸玉は小動物のようにも見えて、とても愛らしい造形物です。おそらくは作品という意識も、むろんタイトルを付けるという意識も似里にはなく、作品はすべて無題です。日々繰り返す営みそのものが、彼にとって大きな喜びなのです。


    略歴

    1968年岩手県生まれ、現在も岩手県在住
    2007年からるんびにい美術館内の「アトリエまゆ〜ら」で制作をしている

    主な展覧会

    2024年
    「異彩のはじまり」ヘラルボニーギャラリー、岩手
    2023年
    「Material,or」21_21 DESIGN SIGHT、東京
    2022年
    共生の芸術祭「わたしはメモリー」京都市美術館、市民交流プラザふくちやま、京都
    2020年
    「フィールド⇔ワーク」東京都渋谷公園通りギャラリー、東京
    2014年
    「アール・ブリュット☆アート☆日本」ボーダレス・アートミュージアムNO-MA、滋賀
    2009年
    第62回岩手芸術祭 岩手県民会館、岩手(現代美術部門 優秀賞)

  • とうもろこし

    平田安弘

    ひらた やすひろ

    とうもろこし

    2011
    紙管にカラー釘、アクリル絵具
    φ9.3 × 43.3 cm
    Courtesy of Atelier Hiko

    平田安弘 ひらた やすひろ

    平田は、工務店を営む家庭に生まれ、小さい頃から父親の仕事場で大工仕事の手伝いをして過ごしてきました。アトリエに通い始めた当初は、横向きの人物や、父親の仕事道具(コーキングガン、釘、ペンキ缶等)の絵を繰り返し描いてきました。

    筒のオブジェ作りが始まったのは2004年頃で、慣れ親しんだ養護学校の卒業や初めて体験する家族・祖母の死など、環境の変化が続いた時期にあたります。父親がたまたま知り合いの業者からもらった紙管がきっかけでした。

    平田は、不安定な曲面に一定の間隔で無数の釘を打ち、その回りにぐるぐると丸を描きます。彼によると、大好物の「とうもろこし」をつくっているそうです。曲面に釘を打つのは高い技術が必要ですが、幼いころから身近にあった金づちを器用に使い、筒の中心に向かって正確に打ち続けます。この「とうもろこし」づくりに10年ほど熱中し、その後は1日1〜2本打つのがゆるやかに続いていました。 2020年コロナ禍で緊急事態宣言が出た頃から再び熱中し、近年は、数種類の釘を使い分け、紙筒の表面全体が釘で覆われる程に密度が極まっています。

    一心不乱に打ち込まれた平田作品からは、何か狂気とも祈りとも感じる崇高な精神性が漂います。


    略歴

    1984年大阪府生まれ、現在も大阪府在住
    1998年中学2年生の頃からアトリエひこに通い、現在は週1回のペースで制作を行ってる

    個展

    2022年
    「カペイシャス展覧会#17 平田安弘個展、Calo Bookshop and Cafe、大阪

    近年のグループ展

    2024年
    「文字とのつきあい」アトリエひこ・となりの三軒長屋、大阪
    2023年
    「UPPALACE 〜暇と創造たちの宮殿〜」アトリエひこ・となりの三軒長屋、大阪
    2021年
    アウトサイダー・アートフェア 特別展「Super-Rough」(キュレーター:村上隆)、SoHo、ニューヨーク、アメリカ

  • 無題

    平野喜靖

    ひらの よしやす

    無題

    2015
    紙に顔料ボールペン
    77.4 × 54.5 cm
    Courtesy of Yellow

    平野喜靖 ひらの よしやす

    平野の初期の頃の作品は、定規を使ったかのような線を一定の長さで繰り返し動物の絵を描くものでした。2014年頃、絵の中に「急患」などの文字が潜んでいることに気づいた支援員が、文字に興味があるのかもしれないと新聞を渡すと、新聞から文字を抽出し、画面いっぱいに丁寧に埋め尽くすようになりました。

    平野は美しいフォントを生みだすので、当初は文字の形に興味があるのではないかと推察されましたが、描き留められる文字が日英ともに意味が伝わるまとまりであることから、次第に言葉の意味を理解していると考えられるようになりました。描かれる文字は、新聞や雑誌から抜き出したものだけでなく、諳んじているフレーズ、彼が生活の中で見聞きする言葉など次第に変化してきました。また彼は、描く際に使用するペンの太さや滲みの特性も利用し、フォントスタイルを柔軟に進化させており、驚くべき造形感覚の持ち主です。文字の中に文字を入れ込む言葉あそびの妙も見飽きることはありません。

    今回は、初期の細い顔料ボールペンによる日本語の文字作品と、近作の太いフェルトペンによる英語と日本語が大胆に織り重なった高い密度の作品《のうない》を展示いたします。平野作品の多くは無題ですが、《のうない》は自身で初めてタイトルをつけた作品です。

    世界規模の問題、日本の社会状況、地域の事件など、時事性を反映した言葉に、家族などの身近な出来事が重ねられた作品は、複雑で混迷する世界をストレートに表現しているとも言えます。


    略歴

    1980年愛知県生まれ、現在大阪府在住
    2006年頃から制作を始め、2009年頃からは主にYELLOWにて制作を行う

    主な個展

    2020年
    「カペイシャス展覧会#13 平野喜靖個展」Calo Bookshop and Cafe、大阪
    2018年
    「カペイシャス展覧会#07 平野喜靖個展」Calo Bookshop and Cafe、大阪

    近年のグループ展

    2024年
    「くりかえしとつみかさね2−センス・オブ・ワンダー」大阪府立江之子島文化芸術創造センター、大阪
    2024年
    「5つのまなざし」 髙島屋大阪店 ギャラリーNEXT、大阪
    2018年
    「無意味、のようなもの」はじまりの美術館、福島
    2017年
    「アールブリュト?アウトサイダーアート?それとも?ーそこにある価値」Eye of GYRE、東京

  • 翼あるもの『十五少年漂流記』

    福田尚代

    ふくだ なおよ

    翼あるもの『十五少年漂流記』

    2022
    頁を折り込まれた書物
    22.4 × 29.3 × 9 cm
    © Naoyo Fukuda Courtesy of Yukiko Koide Presents

    福田尚代 ふくだ なおよ

    福田は、言葉や文字と、自身、そして世界とのつながりのあり方に意識を向けながら、消しゴムや原稿用紙などの文房具、ハンカチや本といった、身近にあるものを用いて制作をしています。その手法に偶然や無意識の作用を介在させ、削る、折る、切り抜く、刺繍するといった行為を執拗に繰り返すことで、事物が変容し、異なる姿に転生したものが作品として現れています。

    今回展示する「翼あるもの」シリーズは、福田が幼い頃より愛読してきた『十五少年漂流記』『海底二万海里』などの本がモチーフになっています。すべての頁が半分に折り込まれ、一冊の中でたった一行しか読むことができません。彼女は次のように語ります。

    「よく誤解されるのですが、お気に入りの一節を見せたいわけではありません(実際に折ってみるまでは何が飛び出すかもわかりません)。そもそも文章は行をまたいで続いているので、どんな内容であれ、ちょうど頁の真ん中に一輪挿しの花のように、切りのよい一行が見つかるだけでも奇跡です。祈るように一心に折るうちにふいに現れる一行だからこそ、本が私へ言葉を発したと、そう確信できるのです。途端にひらめきが訪れて、本は翼あるもの、つまり天空からの使者となります。時は流れ《翼あるもの》たちは、書かれた時代も土地も筆者も異なる互いの一行を交わし合い、あらたな通信をひそやかに続けています」

    《翼あるもの》の囁きに耳を傾けることで、今を生きる私たちの世界はより深く、より豊かに広がっていくのです。


    略歴

    1967年埼玉県生まれ、現在も埼玉県在住
    1992年東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修了

    近年の個展

    2024年
    「福田尚代 ひとすくい」Kanda & Oliveira、千葉
    2018年
    「福田尚代 山のあなたの雲と幽霊」表参道画廊+MUSEÉ F、東京
    2016年
    「福田尚代展 水枕 氷枕」山鬼文庫、石川
    「コレクション 福田尚代 言葉の在り処、その存在」うらわ美術館、埼玉
    2014年
    「『福田尚代作品集 2003−2011』出版記念展」小出由紀子事務所、東京

    近年のグループ展

    2024年
    「GEIDAI BIBLIOSCAPE 2024 オブジェとしての本 」東京藝術大学附属図書館上野本館、東京
    2023年
    「MOTコレクション:歩く、赴く、移動する 1923→2020」東京都現代美術館、東京
    2022年
    「雰囲気のかたち―見えないもの、形のないもの、そしてここにあるもの」うらわ美術館、埼玉
    「旅と想像/創造 いつかあなたの旅になる」東京都庭園美術館、東京
    2020年
    「ふたつのまどか―コレクション×5人の作家たち」 DIC川村記念美術館、千葉

    パブリックコレクション

    うらわ美術館 / 東京都現代美術館 / DIC川村記念美術館 / 愛知県美術館


  • 無題

    藤岡祐機

    ふじおか ゆうき

    無題

    2006-2009
    紙にクレヨン、ハサミでカット
    5.3 × 6.9 cm
    Courtesy of Yukiko Koide Presents(参考作品)

    藤岡祐機 ふじおか ゆうき

    藤岡は、6歳の頃に祖母から手渡されたハサミをきっかけに、自宅で切り紙の作品をつくり始め、現在まで毎日続けています。初期には、半具象的な切り紙をつくっていました。当時3年生だった熊本養護学校に、熊本市現代美術館開館記念展に関わる学芸員が訪問したことをきっかけに、「ATTITUDE2002」で美術館展覧会デビューを果たします。いつしか、紙にハサミで一定の間隔で切り込みを入れるようになり、その幅はどんどん細くなり、現在の藤岡作品へとつながります。

    使用するのはごく普通の文具ハサミで、紙もチラシ、折り紙、コピー用紙など日常生活のなかで手に入るものです。様々な紙を彼にとってしっくりくる、数センチの大きさに整えた後、細かく切り込みを入れ、行為の終わりには必ず斜めにハサミを入れて、紙を手放します。1mmにも満たない細さで刻まれた紙は、螺旋状に縮み、それが束になることで、見たこともない紙の造形物ができあがります。

    毎日つくり出されるこの紙の彫刻とも呼べる作品は、万の数を超え、すべて藤岡の母親によって大切に保管されています。

    一見同じように見えても紙の種類、サイズ、切り込みの幅やハサミを入れる方向など、ひとつひとつが異なります。今回は、2004年から2024年の時系列で厳選された作品を展示します。集積された切り紙に彼の過ごしてきた日々を重ねることもできるでしょう。ひとつとじっくり向き合ったり、全体を通して何かを感じたり、それぞれの方法で藤岡作品と触れ合ってみてください。


    略歴

    1993年熊本県生まれ、現在も熊本県在住
    1999年6歳の頃に紙とハサミを使った切り紙を始め、2002年9歳の時に「ATTITUDE2002」で美術館展覧会デビュー

    主なグループ展

    2023年
    「“みかた”の多い美術館展 さわる知る 読む聞くあそぶ はなしあう「うーん」と悩む 自分でつくる!」滋賀県立美術館、滋賀
    「Material Witness」アメリカン・フォーク・ミュージアム、ニューヨーク、アメリカ
    2022年
    「人間の才能〜生みだすことと生きること」滋賀県立美術館、滋賀
    2020年
    「あるがままのアート−人知れず表現し続ける者たち−」東京芸術大学大学美術館、東京
    2020年
    「ライフ 生きることは、表現すること」熊本県市現代美術館、熊本
    「あしたのおどろき」東京都渋谷公園ギャラリー、東京
    2019年
    「日本とタイのアール・ブリュット〜知られざる美のかたち」バンコク芸術文化センター、バンコク、タイ
    2015年
    「すごいぞ これは!」埼玉県立近代美術館、埼玉(札幌芸術の森美術館、北海道/藁工ミュージアム、高知/鞆の浦ミュージアム、広島へ巡回)
    2014年
    「Art Brut Japan Schweiz」ラガーハウスミュージアム、ザンクトガレン、スイス(グギング・ミュージアム、ウィーン、オーストリアに巡回)
    2002年
    熊本国際美術展「ATTITUDE 2002ー心の中の、たったひとつの真実のためにー」熊本県市現代美術館、熊本

    パブリックコレクション

    滋賀県立美術館 / 熊本市現代美術館 / アメリカン・フォーク・アート・ミュージアム(アメリカ)


  • 無題

    松本国三

    まつもと くにぞう

    無題

    2020
    紙にインク
    約26 × 19.4 cm / 12点組
    Courtesy of Atelier Hiko & Yukiko Koide Presents

    松本国三 まつもと くにぞう

    松本は、カレンダーやメモ帳、手紙などに、ぎっしりと独特の文字を書き重ねた作品をつくります。登場する文字は彼の生まれ育った環境と親密に関わり、なかでも漢字が多く「舞・男・女・鬼・火・命」などは繰り返し出てきます。このスタイル形成のきっかけは、3歳に始まる歌舞伎鑑賞にまで遡り、その後、学校や施設で書写を学び、独学で文字を書き写していたことが基礎になります。また、実家は中華料理店を営み、毎朝、店用の新聞三紙を取りに行く役割も勤めました。新聞の見出しや写真の大きさから社会的事件の重大さを感じながら、漢字と意味を結びつける独自の感覚を形成していったようです。

    カレンダーに文字を書くことは1997年頃から始まり、当初は冷蔵庫に貼られた1ヶ月ごとのカレンダーに、母が記した予定の上から細かな文字で埋め尽くすことをしていました。溺愛されていた父が急逝した2002年以降は、日めくりカレンダーにも書き込むようになります。父が不在となった自宅で、まるで文字に憑依されたかのように夜な夜な書き耽りました。日めくりカレンダーの作品は、彼のライフワークとなり、2020年晩秋、新型コロナウィルスへの感染に誤嚥性肺炎も重なり、重篤な入院生活を強いられるまで続きました。

    今回展示するのカレンダーの作品は、2016年中華料理店が閉店し兄の家へ引っ越した時期のものと、2020年コロナ禍で書き続けた作品群です。またメモ用紙に書かれた作品は父が急逝した直後のものです。

    書かれる紙、滲んだシミ、微かに読みとれる文字から、その背景にある作者に起こった出来事を想像してみてください。松本の書字の軌跡は、生きるにそして生かされるに困難な時代を表象しているともいえるでしょう。


    略歴

    1962年大阪府生まれ、現在も大阪府在住
    1988年から2016年まで実家の中華料理店を手伝いながら、1995年からアトリエひこに参加し、週2日ほどフィールドワークとも呼べる遠足や制作を行う

    個展

    2007年
    Galerie Susanne Zander、ケルン、ドイツ
    2007年
    「憑依文字」小出由紀子事務所、東京(同 2004年)

    近年のグループ展

    2024年
    「文字とのつきあい」アトリエひこ・となりの三軒長屋、大阪
    2021年
    「レターズ、ゆいほどける文字たち」東京都渋谷公園通りギャラリー、東京
    2020年
    「Scrivere Disegnando, When language Seeks Its Other」Centre d'Art Contemporain、ジュネーブ、スイス
    2018年
    「DO THE WRITE THING: read between the lines #2」Gallery Christian Berst、パリ、フランス
    2017年
    「THE MUSEUM OF EVERYTHING EXHIBITION #7」Museum of Old and New Art、タスマニア、オーストラリア
    2017年
    「巡らひの美し 祈りと光〜アトリエひこの作品より〜」よろず淡日、滋賀
    2015年
    「ART BRUT LIVE: Collection abcd/ Bruno Decharme」 DOX Center for Contemporary Art、プラハ、チェコ
    2014年
    「DO THE WRITE THING」Gallery Christian Berst、ニューヨーク、アメリカ

    パブリックコレクション

    アール・ブリュット・コレクション(スイス) / The Museum of Everything(イギリス)/ ポンピドゥー・センター(フランス)


  • contour map# sandy beach (dry)

    森本絵利

    もりもと えり

    contour map# sandy beach (dry)

    2023
    綿布パネルにアクリル絵具3
    41 × 41 cm3
    Courtesy of Gallery Yamaki Fine Art

    森本絵利 もりもと えり

    森本は、一定の規則に則ったシステマティックな手法で絵画や立体を生み出します。感情や情緒が排除されたような難解な印象を持ちますが、実はごく私的な感覚とその行為の記録です。作者は、フラクタルな図形、境界、網目状のものに強く惹かれると言います。湿度や場の匂い、美しい植物や風景を前にした目の悦びなどの具体的な感覚を、独自のフィルターで分化し、作品として再結晶化しています。

    「contour map」(等高線)と名付けられた平面作品のシリーズは、惹かれた風景をモチーフに、数種類の色とサイズのドットに分解、計算をして、予め決めた通りに画面にドットを打つことで生み出されます。対になっている「メモ」は、制作の過程を記した手順書(作者いわく「レシピ」)のようなもので、色毎のドット数とその打った過程を示し、正の字の一角の単位は100ドットです。
    また「percolation」(濾過)と名付けられた紙片の作品は40年来続けている作品です。森本は4〜5歳の頃からハサミを使って紙を細かく切ることを始め、誰に見せるわけでもなく、ある種の儀式のように続けてきました。大学院終了後に、紙を切る映像をインスタレーションとして発表したことで世の中に知られ、その後現在までライフワークとして作品を洗練化させています。

    正円を数ミリ間隔で均質にを置いていくこと、紙片と認識できる最小限の大きさに切ることは、想像をはるかに超えたプロセスと技術が存在します。作者はそれに従って制作することは、身体的な痛みは伴うけれど、精神的にはむしろ安らかで満たされるものだと言います。まるでアスリートが日々鍛錬を重ね驚くべき力を出すように、作者も日々同じ行為を繰り返し感覚を研ぎ澄すことで、全く新しい視覚体験を生みだしてくれるのです。


    略歴

    1978年大阪府生まれ、現在も大阪府在住
    2003年京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了

    主な個展

    2024年
    「contour map ♯ -from the beginning-」ギャラリーヤマキファインアート、兵庫
    2020年
    「たとえばの換算」サイギャラリー、大阪
    2007年
    「森本絵利 展」サイギャラリー、大阪(同 2010、2022)
    2004年
    「クリオテリオム 58」水戸芸術館、茨城
    2002年
    「萌芽のとき」Gallery 16、京都

    主なグループ展

    2024年
    「Here and There and Back Again, Japanese Art 1964 – 2024」Nicolas Krupp Gallery、バーゼル、スイス
    2023年
    「ABSTRACTION ‐絵画の可能性‐」ギャラリーヤマキファインアート、兵庫
    2012年
    「アートピクニックvol.2 呼吸する美術」芦屋市立美術館、兵庫
    2008年
    「VOCA展 2008 現代美術の展望―新しい平面の作家たち―」上野の森美術館、東京
    2003年
    「神戸アートアニュアル2023 Grip the Gap」神戸アートビレッジセンター、兵庫

アクセス

スパイラルガーデン(スパイラル 1階)

〒107-0062 東京都港区南青山5-6-23

東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道駅」
B1出口前、もしくはB3出口より渋谷方面へ1分

  • B3出口にはエレベーター・エスカレーターがあります。
  • 来場に際して配慮を希望される場合は、事前にArt to Live 事務局までご相談ください。
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