学びのかたち 記しと気づき 感じるものたち - Exploring Ⅲ

開催概要

高度情報化社会が進む現代、私たちはパソコンやスマートフォンの中に存在するAIを相手に物事を進める機会が増えました。しかし、人間は本来、周囲との関わりの中で経験を重ね、感覚や知恵を育み、生きる力を身につけてきました。

言語によるコミュニケーションが難しくとも、造形的な表現を通じて自己を発露し、言葉では表しにくい事物を伝え、感覚を提示する人々がいます。何かに制限があるからこそ予想もしない発展を遂げ、没頭しつづけてきた時間が裏付けとなって、作者たちは唯一無二の表現を結晶させます。

そうして生まれた表現や作品は、しばしば日々の営みと深く結びついており、家庭環境や学校生活の経験、身近な動植物や素材、あるいは人との関わり―それらが表現の背景に静かに息づいています。かたちに留まりにくい表現は、他者に受けとめられることで初めて世に知られることも多く、その過程自体にも関わりを強く感じるでしょう。

本展では、「学びのかたち」「記しと気づき」「感じるものたち」という3つのキーワードを手がかりに、学びの基礎から生まれた唯一無二の造形群、かたちが留まりにくい表現の記録、そして感性に導かれ描かれた作品群を紹介いたします。

作品と静かに向き合い、その背景に思いを馳せ、想像力を巡らせること―それは、鑑賞者自身の中に眠っていた記憶や感覚を呼び覚まし、世界を新たな角度から見つめ直す契機となるでしょう。本展を通じて、現代社会においていっそう重要性を増す「感性」や「人と人、そして周囲との関わり」について、同じ時代を生きる皆さまと共に思索を深める場となることを願っています。

開催日時

2026年1月15日(木)ー25日(日)

10:00ー19:00(初日は13:00から、最終日は16:00まで、 1/24(土) はイベント実施のため11:00から)

場所 Osaka Metro 本町ビル 1階
入場料 無料
  • 主催:大阪府
  • 実施主体: 一般社団法人日本現代美術振興協会、カペイシャス
  • キュレーション:一般社団法人日本現代美術振興協会
  • 会場協力:Osaka Metro 本町ビル、株式会社ミューズ
  • 協力:アートスペースコージン、アトリエひこ、アトリエライプハウス、ギャラリーヤマキファインアート、ギャルリー宮脇、ワークセンターとよなか、社会福祉法人久美愛園、社会福祉法人みぬま福祉会 工房集

出展作家

  • きいろ

    大江正彦

    おおえ まさひこ

    大江正彦 おおえ まさひこ

    大江正彦はダウン症と重い心疾患を抱えて生まれ、幼い頃から座ったまま楽しめる「絵を描くこと」が自然と生活の中心にありました。12歳から今井祝雄氏(造形作家)の絵画教室に通い、養護学校卒業後には京都府亀岡市「みずのき寮絵画教室」故・西垣籌一氏(日本画家・教育者)のもとへ、週1回・往復6時間をかけて通うなど、優れた指導者のもとで学びました。その後、母親の「大阪でも障がいのある人のアトリエを」という強い願いに引き寄せられ、アートの専任スタッフが核となり同窓生や恩師が集い、1995年に「アトリエひこ」が設立。近年は若い作家やクリエイターが訪ねるその場所で、また自宅の食卓や勉強机で、30年以上創作を続けてきました。

    初期の作品には、画面いっぱいに愛らしく躍動する動物が描かれています。木炭で大胆に形をとり、筆跡豊かに色を重ねることで、動物たちの生命感をそのまま写し取るようでした。やがて大江の作品は、筆を右手と左手で持ち替えながら身体の疲れも感じさせない筆致で、絵具は厚く盛り上がり、素材そのものと戯れるような表現へと移っていきます。そして2023年1月のある出来事*を契機に、黄色い画面の中央に青い丸が浮かぶ抽象性の高い絵画へと展開し、現在もそのシリーズを描き続けています。近作はいずれも絵具の盛り上がりが極まり、画面そのものが成長していくかのような、生命体のような絵画へと到達しています。

    *2023年アトリエひこ隣の三軒長屋で、アトリエメンバーとアーティストの協働による「UPPALACE~暇と創造たちの宮殿」展が開催されました。大分から来たアーティストが、大江の制作場所の"壁一枚向こう側"で滞在制作を行ったことがきっかけとなり、大江の作品は一気に青い丸とその背景を黄色で塗る抽象画へと変化したといいます。その前段には、同展に出展される、黄色で猫を描く大江の姿を捉えた大型写真作品(撮影:大竹央祐)を見て「きいろー」と指差すことがありました。

    本展では、動物シリーズの後期作(2009-2020年頃)、黄色の《ねこ》(2022)、そして《きいろ》(2023–2025)を展示します。作品変遷を通して、長きに渡り絵画に向き合い続けた大江の創造の源泉に触れていただければ幸いです。


    略歴

    1965年 大阪府生まれ、現在大阪府在住
    1978年〜1982年 大念佛寺アトリエへ通う
    1991年〜1997年 みずのき寮 絵画教室へ週1回通う
    1995年に開設したアトリエひこにて、現在まで精力的に制作している

    個展

    2014年
    「大江正彦展」ナナクモ、京都
    2009年
    「大江正彦動物絵展2」ギャラリーhorizont、京都 (同2005年)
    2004年
    「大江正彦ZOO-GRAPHIC書籍刊行記念展」コロンブックス、名古屋
    「大江正彦ZOO-GRAPHIC」大阪府立現代美術センター、大阪

    主なグループ展

    2025年
    国東半島芸術文化祭 国東半島記憶博物館(旧国見ユースホステル)、大分
    「PARALLEL UPPALACE 〜あたらしい友だちとの遊び、もしくは蜃気楼」 となりの三軒長屋、大阪
    2024年
    共生の芸術祭「いま、なにしてる?」京都市美術館別館、京都
    「文字とのつきあい」 となりの三軒長屋、大阪
    「きいろは じゃない 大江正彦×大竹央祐」となりの三軒長屋、大阪
    2023年
    「UPPALACE 〜暇と創造たちの宮殿」 となりの三軒長屋、大阪
    2016年
    「TORA」ギャラリーten、千葉
    2015年
    「静と動 三苫修・大江正彦」ギャラリーten、千葉
    2014年
    「Outsider Art Fair」 Yukiko Koide Presentsより出展、ニューヨーク、アメリカ
    2011年
    「日書日描 松本国三×大江正彦」天音堂ギャラリー、大阪
    「The Museum of Everything Exhibition #4」ロンドン、イギリス
    2003年
    「DOWN TO ART ダウン症のアーチスト」すみだリバーサイドホールギャラリー、東京
    2001年
    「スーパーピュア展2001」横浜市民ギャラリー他、神奈川
    1999年
    「このアートで元気になる エイブルアート'99」東京都美術館、東京

    コレクション

    The Museum of Everything(イギリス)

  • Untitled

    かつのぶ

    かつのぶ

    かつのぶは、何層にも油絵具を重ねながら、鮮やかな色彩の抽象画を生み出します。2006年、中学2年生(14歳)のときに通い始めた美術教室で、黄色と青色を混ぜて緑色をつくって見せたところ、驚きのあまりしばらくその絵具を見つめていたといいます。混色という体験をきっかけに、彼は約20年にわたり油絵具による色面の絵画を描き続けてきました。

    当初は矩形が重なり合うマチエールの美しい抽象画を制作していましたが、2017年頃からはボーダーの作品へと移行しました。このシリーズでは、縦に筆を引き、キャンバスの下端まで到達すると隣の列に移って再び縦に引く、という繰り返しで塗り重ねていきます。横いっぱいまで塗り進むと、少し下にずらして同じ法則を繰り返します。ボーダーに見える横の帯は、無数の縦ストロークの連なりによって構成されているものであり、側面に残る絵具の層や下部に溜まる滴は、その制作過程を想像させます。

    混色を学び色に魅了されたかつのぶは、自らの理想とする色の風景を求めて、毎日丁寧に色を調合し、絵具を塗り重ね続けます。複数点を同時に制作していますが、1点を完成させるのに1年以上かかるといいます。シンプルに見える行為の中には、色彩を操る喜び、手業が生みだす繊細で温かな形、確かな手応えに通じる重み、そして豊かな時間などが内包されているように思います。こうして生まれるのが、かつのぶが自身の方法で真摯に向き合い、生み出してきた唯一無二の絵画です。


    略歴

    1992年 大阪府生まれ、現在大阪府在住
    2006年 中学生(14歳)のときに美術教室に通いはじめる

    個展

    2022年
    「かつのぶ展」小山登美夫ギャラリー天王洲、東京
    2018年
    Gallery Ami Kanoko、大阪(同 2017年、2016年)

    主なグループ展

    2025年
    Art to Live展「アートを社会で活かす」大阪・関西万博ギャラリーWEST、大阪
    「アウトサイダーアートの方向 - westerly winds from osaka -」深川東京モダン館、東京
    2017年
    カペイシャス展覧会#06「あなたが『こだわり』と呼んでいるものは、私にとっては『ふつう』かもしれない」大阪府立江之子島文化芸術センター enoco、大阪
    2016年
    「加地英貴/高山勝充 展」Gallery Ami Kanoko、大阪
    「LIFE ART 2016 - Art by ripehouse Artists -」海岸通ギャラリーCASO、大阪
    「MY WAY YOUR WAY 〜行けばわかるさ 迷わず行けよ〜」龍谷大学瀬田キャンパス、滋賀
    2015年
    「Spirits/ライプハウスの風 素晴らしきripehouse Artists」くらよしアートミュージアム無心・米子コンベンションセンター、鳥取
    「韓・中・日 障害者美術交流展」西帰浦芸術展示室、済州島、西帰浦市、韓国
    2013年
    「イメージのはじまり - The marks of sparks -」Gallery H.O.T、大阪
    2011年
    「LIFE ART 展」海岸通ギャラリーCASO、大阪

  • 無題

    勝山直斗

    かつやま なおと

    勝山直斗 かつやま なおと

    勝山直斗の壁画は、小学5〜6年生の頃、インフルエンザで個室療養していた際に生まれたものです。手元に画材がない中でも、彼は唾液で壁紙を湿らせて剥がすという独自の手法で、懸命に描き続けました。
    壁紙を破る行為は、一般的には物損とも受け取られかねません。しかし、施設関係者はその行為を彼にとって欠かせない表現として尊重し、冷静に受け止めました。後に画材を手にしてからは、剥がした壁紙の上にペンで同じモチーフを描き重ねていたようです。こうした営みの痕跡は、彼が退所した2025年現在も久美学園の3〜4つの居室を中心に残されています。
    また勝山は、剥がした壁紙を口に含んでガムのように噛み、その後、天井に投げつけて貼り付けることもしていました。天井を見上げると、まるで星空のように無数の紙片が散りばめられています。

    個室にこもり、壁紙をめくって壁画を描き続けたこと。そして、壁紙や色折紙を噛んで天井に投げつけ、貼り付けていたこと。それらは、誰かに見せるためではなく、ひとりで過ごす時間の中で自己完結的に育まれた表現でした。しかし、その営みは支援者のまなざしによって見いだされ、今日こうして世に紹介されることとなりました。

    好きなモチーフに囲まれ、天井を見上げながら、彼はどのような思いを巡らせていたのでしょうか。勝山の残した痕跡は、鑑賞者を豊かな空想へ誘います。


    略歴

    2006年 埼玉県生まれ、埼玉県在住
    2009年〜2025年 久美学園で3歳から18歳まで過ごす
    2025年 現在は工房集で日中の制作活動を行っている

    グループ展

    2021年
    共生の芸術祭「旅にでること、その準備」京都市美術館 別館、京都
    第12回埼玉県障害者アート企画展「LOOK ART ME!!」埼玉県立近代美術館、埼玉
    2020年
    「満天の星に、創造の原石たちも輝く -カワル ガワル ヒロガル セカイ-」東京都渋谷公園通りギャラリー、東京
    「まなざしラジオ in 芸劇」東京芸術劇場 ギャラリー2、東京
    2019年
    第10回埼玉県障害者アート企画展「knock art 10 -芸術は無差別級-」埼玉県立近代美術館 、埼玉
    2018年
    第9回埼玉県障害者アート企画展「ソニックブーム うふっ」ソニックシティ、埼玉
  • 無題

    齊藤彩

    さいとう あや

    齊藤彩 さいとう あや

    齊藤彩は、生のエネルギーが溢れ出す情動的な絵画を制作します。制作のテーマやモチーフを尋ねても、彼女は多くを語らず「やはりことばではないなぁ、描きたいなぁ」と答えます。画面には、顔や人形のシルエット、目や耳といった感覚器官、植物や生物の触手、細胞や胞子を思わせる形などが有機的に構成され、豊かで多様なイメージが広がります。制作方法も独特で、主に油彩を用いながら(時にアクリル絵具、墨、鉛筆、クレヨン等も併用)、指先や掌を使って直接描くという、身体性の強い手法が用いられます。

    作者が生まれ育った土地の原風景やこれまでに出会ってきた出来事の積み重なりが、彼女の感性と身体に深く刻まれ、指先を通して紙と絵具を導いているように見えます。その筆跡は同時に、個人の記憶や経験を超越した何か、まるで地球の胎動が、彼女の身体を媒介にして画面へ立ち現れているかのようにも感じられます。

    本展では、数としては多くない、抽象性の高い作品を選び展示しています。具体的な形の意味から少し距離を置き、豊かな色彩と複雑な筆致を通して、齊藤彩の絵画が内に宿す鼓動や息づかいに触れていただければ幸いです。


    略歴

    1981年 東京都生まれ、現在神奈川県在住
    2003年 女子美術大学洋画専攻卒業

    個展

    2025年
    「めぐりめぐる絵画 ― 齊藤彩個展」ギャルリー宮脇、京都
    「或る日の女」iTohen Gallery Books Coffee、大阪
    2024年
    「齊藤彩作品名付けプロジェクト展 ― 絵を読む タイトルは必要か」永井画廊、東京
    2022年
    「齊藤彩展2022」京都場、京都
    2021年
    「ニケキュレーターズセレクション#5 齊藤彩展」女子美術大学杉並キャンパス ガレリアニケ、東京
    2015年
    「齊藤彩 2003〜2015」横浜市民ギャラリーあざみ野、神奈川

    主なグループ展

    2025年
    「女子美術大学創立125周年記念展 ― 教え育まれてきた才能たち(明治から令和へ)」日本橋三越本店、東京
    2022年
    「コレクション展2022-秋冬 特集:田中恒子コレクション」和歌山県立近代美術館、和歌山
    齊藤彩×中屋敷智生 2人展「歩く ― 彷徨の記憶をはぐくむ時間」ギャルリー宮脇、京都
    2021年
    齊藤彩×中屋敷智生 2人展「歩く ― 感覚と思考の交差点」武蔵野美術大学鷹の台キャンパス、東京
    2018年
    「高橋コレクション 顔と抽象」清春芸術村、山梨
    2009年
    「森山大道『記録』on the road collaboration with 8 creators」エプサイトギャラリー、東京

    受賞歴

    2008年
    COLOR IMAGING CONTEST 勝井三雄賞
    2005年
    第25回グラフィックアートひとつぼ展 グランプリ
    2004年
    第1回フォイルアワード グランプリ
    GEISAI 5 奈良美智賞

    パブリック・コレクション

    女子美術大学美術館/高橋龍太郎コレクション/和歌山県立近代美術館


  • こわれながらうまれる(間違った言葉)1

    高田マル

    たかだ まる

    高田マル たかだ まる

    高田マルは「人間はなぜ、いまだに絵を描き、絵を見せ、絵を見ることを欲するのか?」という根源的な問いを基軸に、自ら絵画検討会を主宰し、同時代の作家とのグループ展や対話企画などを通じて、その探究を実践的に行っています。

    「絵をめぐる人間の原初的な衝動や欲求を探るうえで「絵画」を物質的なひとつの形式ではなく人と人のあいだで起こる出来事として捉え、ごく個人的な描写と記述、公の場におけるそれらの伝達と誤読のなかで何が起こっているのか実践を通して考えている。言説としての「絵画」は移り変わっていくが、絵を描く行為はいつまでもどこまでも私的だ。私的であるがゆえに弱さと強さを持ち、他者と対峙することで壊れながら生まれていく絵に、私は付き合い続けている。」

    ーアーティスト・ステートメント

    本展では、日常のなかで「目があった」「同じ時間を過ごした」ものを、日記帳に描き留めた鉛筆による小さな線画を壁画へと拡張し、公的空間において絵が立ち上がり、鑑賞者にとっての絵へと変容し、やがて消失するプロセスを内在する《壁絵》シリーズと、可読と不可読の境界に揺らぐ文字列のような線を用いて、「描く/書く」という営為そのものが前景化した《こわれながらうまれる(間違った言葉)》シリーズを展示します。

    私的なものであった日記帳の絵や文字未満の線が、他者との遭遇によって変容する「出来事としての絵画」に触れながら、私たちは場所や時間をいかに共有し、どのように記憶として形成されていくのか、あらためて考えるきっかけを得ることになるでしょう。


    略歴

    1987年 神奈川県生まれ、現在大阪府在住
    2009年 日本女子大学文学部史学科宗教学専攻卒業
    2012年〜2015年 美學校にて複数の講座を受講
    2024年 京都市立芸術大学大学院美術研究科油画専攻修了

    個展

    2025年
    「日記が手紙になるとき 生まれるのはあなた 知らない巨人は友人」棒/VOU、京都
    2024年
    「この花、ダリア、ダリア、ダリア、」NADiff Window Gallery、東京
    2023年
    「向かって行く線、朝の挨拶」JITSUZAISEI、大阪
    2022年
    「祈りの言葉は今日も同じかたちをしている」soko station 146、東京
    「知らない言葉で なんども祈る 複製が」NADiff Window Gallery、東京

    近年のグループ展

    2024年
    「Window Gallery in Marunouchi ― from AATM vol.2」行幸地下ギャラリー、東京
    「Art Rhizome KYOTO 2024 ― 逆旅京都」京都市役所分庁舎、京都
    白髪一雄生誕百周年記念展関連企画「常行三昧」A-LAB、兵庫

    出版

    2024年
    共著:高田マル、遠藤祐輔『.xyz/provoked』paper company
    編著『祈りの言葉は向かって行く線、今日も同じかたちをしている朝の挨拶』絵画検討社
    2022年
    編著『忘れられない絵の話 絵画検討会2020–2021』絵画検討社
    2020年
    編著『21世紀の画家、遺言の初期衝動 絵画検討会2018』絵画検討社

  • 牛乳パック

    中根恭子

    なかね きょうこ

    牛乳パック

    2014ー(進行中)
    サイズ不定形
    記録写真、2025年撮影

    中根恭子 なかね きょうこ

    中根恭子は、2014年頃から牛乳パックをハサミで切り、切り取った小片をプラスティックの収納ケースの中に積層させていく行為を渡り続けています。印刷されている製品ロゴ、原材料名、栄養成分表、マークやキャラクター、バーコード等をゆっくりと切り取り、それらを一切れずつ置き、ケースの中で丁寧にレイアウトしていきます。 紙片同士は接着していないので振動に脆く、ケースの下の方や側面では雪崩を起こし、有機的な地層を形成します。止まることなく積み重なっていく紙片群は、日毎に微妙に変化し、複雑な表層を見せ続けます。時々、文字が一文字ずつにカットされバーコードのライン上に並べられていくこともあり、その光景は見所の一つです。

    モノとして留めておくことができないこの行為は、確認できる中でも10年以上つづいており、その間支援スタッフや展覧会企画者が不定期に記録撮影をしてきました。今回展示する記録写真は、2025年3月〜12月の約9ヶ月の時間の変化をご覧いただきます。


    略歴

    1984年 大阪府生まれ、現在大阪府在住
    2008年 ワークセンターとよなかに通所しはじめる
    2014年頃から、牛乳パックをハサミで切り、小片をプラスチックの収納ケースに積層させる制作を続けている

    グループ展

    2025年
    Art to Live展「アートを社会で活かす」大阪・関西万博ギャラリーWEST、大阪
    2024年
    「くりかえしとつみかさね2 大阪府20世紀美術コレクションと現代作家たち」大阪府立江之子島文化芸術創造センター enoco、大阪
    2019年
    共生の芸術祭「DOUBLES」京都府立京都学・歴彩館 小ホール、京都
    2017年
    カペイシャス展覧会#06「あなたが『こだわり』と呼んでいるものは、私にとっては『ふつう』かもしれない」大阪府立江之子島文化芸術センター enoco、大阪

  • とうもろこし

    平田安弘

    ひらた やすひろ

    平田安弘 ひらた やすひろ

    平田安弘は、工務店を営む家庭に生まれ、小さい頃から父親の仕事場で大工仕事を眺めて過ごしてきました。アトリエに通い始めた当初は、横向きの人物や、父親の仕事道具(コーキングガン、釘、ペンキ缶等)の絵を繰り返し描いてきました。

    筒のオブジェ作りが始まったのは2004年頃で、慣れ親しんだ養護学校の卒業や初めて体験する家族・祖母の死など、環境の変化が続いた時期にあたります。父親がたまたま知り合いの業者からもらった紙管がきっかけでした。

    平田は、不安定な曲面に一定の間隔で無数の釘を打ち、その回りにぐるぐると丸を描きます。彼によると、大好物の「とうもろこし」をつくっているそうです。曲面に釘を打つのは高い技術が必要ですが、幼いころから身近にあった金づちを器用に使い、筒の中心に向かって正確に打ち続けます。この「とうもろこし」づくりに10年ほど熱中し、その後は1日1〜2本打つのがゆるやかに続いていました。
    2020年コロナ禍で緊急事態宣言が出た頃から再び熱中し、近年は、数種類の釘を使い分け、紙筒の表面全体が釘で覆われる程に密度が極まっています。

    一心不乱に打ち込まれた平田作品からは、何か狂気とも祈りとも感じる崇高な精神性が漂います。


    略歴

    1984年 大阪府生まれ、大阪府在住
    1998年 学2年生の頃からアトリエひこに通い、現在も週1回のペースで制作を行う

    個展

    2022年
    「カペイシャス展覧会#17 平田安弘個展」Calo Bookshop and Cafe、大阪

    近年のグループ展

    2025年
    Art to Live展「アートを社会で活かす」大阪・関西万博ギャラリーWEST、大阪
    「Exploring II ― 日常に息づく芸術のかけら」スパイラルガーデン、東京
    2024年
    「文字とのつきあい」アトリエひこ・となりの三軒長屋、大阪
    2023年
    「UPPALACE 〜暇と創造たちの宮殿〜」アトリエひこ・となりの三軒長屋、大阪
    2021年
    アウトサイダー・アートフェア特別展「Super-Rough」(キュレーター:村上隆)SoHo、ニューヨーク、アメリカ

  • 能楽の翁は

    松本国三

    まつもと くにぞう

    松本国三 まつもと くにぞう

    松本国三は、カレンダーやメモ帳などに独特の文字を書き重ねる作品を制作します。登場する文字は彼の生まれ育った環境と深く結びつき、中でも漢字の「舞・男・女・鬼・火・命」などが繰り返し現れます。このスタイルは、3歳に始まる歌舞伎鑑賞に始まり、学校や施設での書写の学び、さらには集めたパンフレットから独学で臨書をするうちに独自の文字世界が形成されていきました。

    毛筆で書かれた作品は、松本の壮年期にあたる2000年頃のものです。松本は父親にねだって歌舞伎座や文楽劇場へ出掛けては、先々でカタログを買い求めました。アトリエひこに通い始めてからは、週に一日遠足と称して関西一円の名勝地を訪ね、そこでもチラシ集めに余念がありませんでした。そして蒐集した膨大な紙資料を一心に眺め、気になる文字を繰り返し書き写すうちに、漢字は部首が分解、再構成され、独自の文字へと変容してゆきました。

    今回展示する「能楽の翁」「大詰 長町裏の場」「茶室 黄梅庵」からはそれぞれ能、歌舞伎、茶道への心酔が伝わってきます。
    また共に展示するメモの作品は、溺愛されていた父親急逝後、父不在の自宅で夜な夜な没頭して書いていたものです。

    松本の独創的な文字世界を、書かれた紙や、文字の密度、年代などを合わせて読み解くと、彼の人生が浮かび上がってくるようです。


    略歴

    1962年 大阪府生まれ、大阪府在住
    1985年頃より文字を書くことが日課となる
    1988年〜2016年、実家の中華料理店を手伝う
    1995年からアトリエひこに参加する

    個展

    2007年
    Galerie Susanne Zander、ケルン、ドイツ
    「憑依文字」小出由紀子事務所、東京
    2004年
    「憑依文字」小出由紀子事務所、東京

    近年のグループ展

    2025年
    「Art Brut. The privacy of a collection. The Decharme donation to the Centre Pompidou 」Grand Palais、パリ、フランス
    Art to Live展「アートを社会で活かす」大阪・関西万博ギャラリーWEST、大阪
    「Exploring II ― 日常に息づく芸術のかけら」スパイラルガーデン、東京
    2024年
    「文字とのつきあい」アトリエひこ・となりの三軒長屋、大阪
    2022年
    「Do the Write Thing: read between the lines #3」Christian Berst、パリ、フランス
    2021年
    「レターズ、ゆいほどける文字たち」東京都渋谷公園通りギャラリー、東京
    2020年
    「Scrivere Disegnando: When Language Seeks Its Other」Centre d'Art Contemporain、ジュネーブ、スイス
    2018年
    「Do the Write Thing: read between the lines #2」Christian Berst、パリ、フランス
    2016–2017年
    「The Museum of Everything Exhibition #7」Museum of Old and New Art、タスマニア、オーストラリア
    2015年
    「Art Brut Live: Collection abcd / Bruno Decharme」DOX Center for Contemporary Art、プラハ、チェコ
    2014–2015年
    「Art Brut Live: Collection abcd / Bruno Decharme」La Maison Rouge、パリ、フランス

    パブリック・コレクション

    ポンピドゥー・センター(フランス)/アール・ブリュット・コレクション(スイス)/The Museum of Everything(イギリス)


  • 御影石(大)

    森本絵利

    もりもと えり

    森本絵利 もりもと えり

    森本は、一定の規則に則ったシステマティックな手法で絵画や立体を生み出します。感情や情緒が排除された難解な印象を持ちますが、実はごく私的な感覚とその行為の記録です。作者は、フラクタルな図形、境界、網目状のものに強く惹かれると言います。湿度や場の匂い、美しい植物や風景を前にした目の悦びなどの具体的な感覚を、独自のフィルターで分化し、作品として再結晶化しています。

    「contour map」(等高線)と名付けられた平面作品のシリーズは、惹かれた風景をモチーフに、数種類の色とサイズのドットに分解、計算をして、予め決めた通りに画面に点を打つことで生み出されます。対になっている「メモ」は、制作過程を記した手順書(作者いわく「レシピ」)で、色ごとのドット数とその手順を示し、正の字の一角の単位は100ドットです。本展では、作者ゆかりの地にある砂浜をモチーフにした近作を展示いたします。
    また、森本は4〜5歳の頃からハサミを使って紙を細かく切ることを始め40年以上ライフワークとして続けています。その延長にあるものが今回展示する立体作品「御影石(大)」で、独自のルールに則って、1×10mmの短冊を切り出し、極小の紙輪を鎖状に繋げることで構成されています。

    正円を数ミリ間隔で均質に置いていくこと、極小の紙片を精緻な輪として無数につないでいくことには、想像をはるかに超えたプロセスと技術が存在します。作者は、この反復的な行為について「身体には痛みをともなうけれど、精神はむしろ安らぎ、満たされる」と語ります。幼少期の"紙を切る"原体験は長年の鍛錬によって洗練され、森本作品は卓越した手技と静かなリズムをまとった表現へと結実しました。その造形は、鑑賞者に驚きとともに全く新しい視覚体験をもたらします。


    略歴

    1978年 大阪府生まれ、大阪府在住
    2003年 京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了

    主な個展

    2024年
    「contour map ♯ -from the beginning-」ギャラリーヤマキファインアート、兵庫
    2022年
    「森本絵利 展」サイギャラリー、大阪(同 2010、2007)
    2020年
    「たとえばの換算」サイギャラリー、大阪
    2004年
    「クリオテリオム 58」水戸芸術館、茨城
    2002年
    「萌芽のとき」Gallery 16、京都

    主なグループ展

    2025年
    「Exploring Ⅱ―日常に息づく芸術のかけら―」スパイラルガーデン、東京
    2024年
    「Here and There and Back Again, Japanese Art 1964 – 2024」Nicolas Krupp Gallery、バーゼル、スイス
    2023年
    「ABSTRACTION ‐絵画の可能性‐」ギャラリーヤマキファインアート、兵庫
    2012年
    「アートピクニックvol.2 呼吸する美術」芦屋市立美術館、兵庫
    2008年
    「VOCA展2008 現代美術の展望―新しい平面の作家たち―」上野の森美術館、東京
    2003年
    「神戸アートアニュアル2003 Grip the Gap」神戸アートビレッジセンター、兵庫

アクセス

Osaka Metro 本町ビル 1階

〒541-0053 大阪市中央区本町3-6-4

Osaka Metro「本町」駅 7号出口直結

  • 7号出口付近の地下連絡通路から建物へ入り、エスカレーターまたはエレベーターで地上1階までお上がりいただけます。
  • エレベーターをご利用の方は、改札階と地下連絡通路階の2ヶ所にあります。乗り継いで会場までお越しください。
  • 来場に際して配慮を希望される場合は、事前にArt to Live 事務局までご相談ください。
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